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アラエルの原典は何なのか?

  • 2011-06-22 (Wed) 18:00
  • Diary

Trace FEZさんで、アラエルセットの名前の由来について、『鳥を司る天使、ということだが、アニメのエヴァ以外での言及はほぼ見当たらない。』とあったのを見かけて、以前から気になっていたのですが。

仕事でちょうど天使についての資料を買い込んだので、ついでにと調べていたのですが、結局由来が分からないままでした。自分ではこれ以上調べることはないと思うので、追えたところまでメモついでに置いておきます。

まず、アラエルとはどんな天使なのか

手持ちの天使辞典(グスタフ・デイヴィッドスン著、吉永進一監訳)本によると、

アラエル Arael(アリエル Ariel):
「古代魔術書」p115によれば、タルムード編纂のラビたちが、鳥類の群れの支配者とした聖霊。

とのこと。これだけしか書いてない上に、『タルムード編纂のラビたちが…』と、えらいぼかした記述です。これじゃ何も分からないので、とりあえず引用元を追ってみました。

由来を追いかける

で、天使辞典が引用していた『古代魔術書』(『The ancients book of magic』(Lewis de Claremont,1940))の記述はこちら。

ARAEL:
One of the spirits which the rabbis of the Talmud made princes and governors over the people of the birds.

天使辞典はこの文章をほぼそのまま引用したみたいですね。
この下にろうそくがどうの、お香とオイルがどうの、と書いてあったので、これオカルト系の何かの本みたいです。

この本、Googleブック検索には一部しかプレビュー登録されていなくて、何から引用された文章なのか分かりません。仕方がないので、Googleブック検索で『Arael』の記述がある本を総当りしてみました。すると、20年前の著作『An Encyclopaedia of Occultism』(Lewis Spence、1920)を発見。
これの32ページによると…

Arael:
One of the spirits which the rabbis of the Talmud made princes and governors over the people of the birds.

この本の丸写しじゃないか('△')
この本の参考文献を見てみると、どうやらこの本自体もこういった纏め本からの孫引きみたい。この年代はこういうオカルトが流行ってたみたいですね。

さらに時代を遡って、ドイツ語の本『Illustrirtes archäologisches Wörterbuch der Kunst des germanischen Alterthums(Hermann Alexander Müller, Oskar Mothes, 1877)』にも同じ記述を見つけることが出来ました。

Anpiel(Arael),
nach dem Talmud ein Engel, der Fürst über die Vögel ist.

ぐぐるさんに聞いたところ、『タルムードによれば、天使は鳥の王子です』とのこと。機械翻訳なので精度は分かりませんが、ラビがどっか行ってしまったものの、他の本の文章ほぼそのまま。ここから引用されたのか、オリジナルが他にあるかは分かりませんが、アンピエル(Anpiel)という天使の別名として紹介されていますね。

なお、アンピエル自体も、『天使辞典』では天使と明示してある以外は、ほぼ同じような文章で、同じような役割として書かれています。ただし、アラエルとの関連性には触れられていません。

アンピエル Anpiel
ラビ伝承では、鳥類を守護する天使。第6天に住み、70の門を監督する長。地上から昇ってくる全ての祈りに70の冠を抱かせ、さらなる清めのために第7天へと導く。
(出典:『ゾハル』:スペンス『オカルティズムの辞典』(*←先に紹介した『An Encyclopaedia of Occultism』ですね))。
ギンズバーグの『ユダヤ人の伝説』I. 138では、アンピエルはエノクを天国へと運ぶ。→アンフィエル

他にもGoogleブック検索でざっくり調べてみましたが、『Arael』という綴りの天使は、1833年の「THE FALLEN ANGEL」(EDWARD MATURIN)という小説までは追っかけられましたが、それ以前は資料が見当たりませんでした。

タルムード、タルムードって何度も名前が出てきてるんですけど、少なくとも検索にはかかってこないんですよね。見かけた方がいらっしゃったら是非教えて欲しいです。サンプル登録されていないだけなのかなあ。でも、タルムードに記述がなかったからこそ、「タルムードを編纂したラビたちが…」なんてヘンな表記になったのかなあ、と思ったりもします。真相は闇の中。

本当の出典は何?

それにしても、まさか小説が出典ということはあるまい、と思って、その後も時代を遡ってぐぐるさんに聞いてしらみつぶししてみたところ、名前だけはもうすこし時代を遡った、聖書の訳本のヒトツに見つけることが出来ました。
『The holy Bible, tr. from the Gr., by C. Thomson』(Charles Thomson, 1808)のヨシュア記19章、36行目です。

JOSHUA XIX 35,36 (←記述の仕方が合っているかどうか分からないけど…)
Now the fenced cities of the Tyrians, were Thre and Oma-
thadaketh, and Kenereth, and Armaith, and Arael, and Asor,

日本語訳や英訳など、他の訳本と比べてみると、ラマ(Ramah)という土地の名前を指しているようです(自分は語順でしか判断が出来ないので、正しいかどうかの検証はお任せします)。

とりあえず、名前だけはあった。しかも、旧約聖書の中にあった。
聖書の読み違いや解釈の違い、誤字や脱字や誤解からいろんな天使や悪魔が生まれたと聞きますし、もしかすると、アラエルもそういう天使の一柱なのかも知れませんね。

まあでも、小説由来説はまだ捨てきれないんですけども…。
自分はここまでなので、どなたか分かった!という方がありましたらぜひ教えてください。

余談

ところで何でこの聖書、他の聖書と固有名詞が違うかというと、これがどうも、ギリシャ語版の『七十人訳聖書』が、初めてアメリカで英訳出版されたものらしいのです(>Thomson's Translation : Wikipedia)。バチカン写本とアレクサンドリア写本で、当該部位の名前の記述が違う、というネット上での情報もあるので、ちょっと調べてみたんですけど、どれを底本にしているかは分かりませんでした。

ていうか、今沢山の人が読んでる聖書って、一体どの本を元にして翻訳したものなんだろう。日本語版だけでもいっぱいある上に、それぞれの発行部数もちょっと、すぐには調べがつきませんでした。

翻訳をしたCharles Thomsonはこの本の翻訳以前、アメリカ独立革命を推進した勢力(パトリオット)のフィラデルフィアでのリーダーだった、とのこと。Wikipedia読む限り、一時かなり大きな権力を持っていたようなんですけど、日本ではあんまり触れられていませんね。

それにしても、聖書って初めて中身を見たんですが、行がかならず5行置きに数字が振ってあって、これみんなやっぱり解釈とか、翻訳の違いとかに悩んでるのかなあ…。詳しいことは分かりませんが、翻訳や用語の違いを確かめるのに便利ですね。

で、宣伝

イラスト全点担当させて頂きました、『「天使」と「悪魔」大全』(榎本秋監修、新人物往来社)は本日発売でござります。

「天使」と「悪魔」大全(AA)
榎本秋(監修)新人物往来社

時間との兼ね合いもあるので、なかなか全てをここまで突っ込んでは調べられないのですが、毎回こんなことをしながら絵を描いています。

調べはしても、なかなか絵に反映しきれないのがもどかしいところなんですけども。
当時の文化とか、その土地の風土とか、もっと色んな事を知りたいですね。
より一層精進してまいります。

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